【3冊目】頭よ、頼むから最後までしっかりがんばってくれ 前回の記事では、「書評のための本の選び方」と称し、現在の私の本の選択の仕方を紹介した。 しかし、実は、紹介というよりも、自分自身の本の選び方について一度整理しておきたかった、という理由ためだったのが本当のところである。頭の中でぼんやり「こうだろうな」と考えを巡らせるのと、それを文章にするのとでは、たとえ自分の頭の中の思考であっても、その理解度には雲泥の差が生じると思うのだ。 同様に、本を読み終わったあとの、頭の中にある様々な思いを「書評」という形で文章化することも、重要な行為だと言える。文章化することで本の理解度、自分が持った感想に対する理解度が増すはずである。 では、本の紹介に移ろう。 今回紹介する本はヘミングウェイの「老人と海」である。 文学的教養が無いに等しい私が、突然このような本を選んだのは不自然である。つまり、前回紹介した「本の紹介パンフレット」から文学作品と思われるものから無作為に選んだ一冊というわけだ。 そんな「私が読んで面白さがわかるのか」と不安を抱きながら読み進めた本書において、心に響いてきた言葉が以下であった。 ”手よ、どんどん綱を引いてくれ。脚よ、しゃんとしろ。頭よ、頼むから最後までしっかりがんばってくれ、いいか。(p.83)” 主人公の老漁夫サンチャゴが、巨大カジキマグロとの死闘を繰り広げ、そして、最後の一撃を放とうする。そんな場面でのセリフである。 老人と海は「ハードボイルド小説」に類する作品である。そのハードボイルドを凝縮したようなこのセリフに、この老人の勇ましさを感じずにはいられなかった。 作中で何度も怪我をする老人であるが、その度に「ちゃんとしてくれ」と、自分の体から怪我をした部分を切り離し、あたかも別個の生命のように語りかけるのである。それは、痛みを意識から取り除くためであり、また、孤独に耐えるためなのであろう。そして、最終的に「ぼうっとしてきた」頭すら切り離し、「頼むから最後までしっかりがんばってくれ」と話しかけるのである。 サンチャゴは巨大カジキマグロとの死闘中や死闘後、港へ帰る途中に様々な漁具を失う。しかし、彼はそのことに対してほとんど後悔も不安も感じていないのだ。どんな窮地に立たされても「いや、手はあるぞ」と戦うための策を練るのである。 自身から身体や頭を切り離すことで、それらを道具と見なす。そして、その道具を失うことに臆すること無く、強大な敵へ立ち向かう。つまり、身を捨ててでも敵に勝とうというのだ。凄まじい緊張感と迫力を読んでいて感じた。 老人と海、ストーリー自体は至ってシンプルだが、そこがまたハードボイルドさを際立たせているのかもしれない。私でも十分に楽しめる名作であった。 実生活でここまでストイックになれる場面は少ないかもしれない。でも、巨大カジキマグロのような強大な敵、大きな困難に立ち向かわなくてはならないこともあるだろう。そんなとき、主人公サンチャゴの勇姿が、ハードボイルドに淡々と壁を乗り越えるための力をくれるかもしれない。 PR